みこもかる通信~web版~ 第6回 秋の雨と謎の黄色

第6回 秋の雨と謎の黄色

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 秋の終わりになると、冷たい雨が降って直ぐに止む、そんな天気が多い気がします。本格的な冬の前、秋の終わりに降る雨のことを「時雨(しぐれ)」と呼ぶそうです。冬型の気圧配置になると、大陸からの冷えた季節風が暖かい日本海上空で湿り気を多く含んだ風になり、雲を作ります。そして日本列島の山にぶつかり、雨や雪が降ります。この現象が波状的にやってくることで、急に雨が降ったりやんだりする「時雨」が起きるそうです。

そんな時雨が過ぎた次の朝、水たまりに黄色く縁取られている様子を見たことがある方も多いのではないでしょうか?よく見てみると、黄色い粉の塊であることがわかります。この粉の正体は何なのか!電子顕微鏡で拡大して観察してみることにしました。

明らかに黄色い!
黄色い粉だ!

 この黄色い粉を電子顕微鏡で拡大して見ると、小さなハート型がたくさん集まっていました。可愛い!(見る人によってはおしりや桃に見えるかもしれません)

皆さん予想がついているかもしれませんが、これは花粉です。このハート形の花粉は、“ヒマラヤスギ”という木の花粉です。ヒマラヤスギはスギという名前がついていますが、マツ科の植物です。聞いたことが無いという方も、見慣れた松ぼっくりの形を見ればピンとくるのではないでしょうか。
 なぜ花粉がかわいらしい形をしているのかにも、理由がありました。二つの膨らんだ部分は「気嚢(きのう)」といい、袋状になっています。これが浮袋として機能し、マツ科の花粉は風を受けてできるだけ遠くに飛ぶことができます。花を作らない針葉樹ならではの工夫と言えます。

ヒマラヤスギ
ヒマラヤスギの松ぼっくり

多くの方がお困りの花粉症の多くはスギ花粉やヒノキ花粉が原因です。マツ花粉が原因の花粉症はあまり聞かないですよね。マツ花粉の花粉症の方が少ないのには二つ理由があります。

マツ科の花粉の場合、気嚢という工夫があったとしても大きいのであまり遠くへ飛びません。この図のように、ヒノキ花粉やスギ花粉は30μmほどの大きさに対してマツ科の植物の花粉は50μmと大きいです。マツ科の花粉は遠くへ飛ばず、近くの地面に落ちてしまいます。
 そして飛散時期も2週間程度と短いことも理由の一つです。こういった理由でマツ科の花粉症の方が少ないと言われています。だとしても、マツに囲まれたゴルフ場の職員さんはマツ花粉症になることがあるそうです。(ある種の職業病?)
 ちなみに一般的なマツの花粉はくまさんの様な形をしています。こちらも可愛い。このくま型の花粉も、二つの気嚢がついているのでこのような形の花粉となっています。マツが花粉を飛ばすのは45月ですので、春の雨の時期にも水たまりに黄色い縁取りが現れます。

~電子顕微鏡について~
 一般的に理科の授業で使われる光学顕微鏡は、観察対象に対して光を当て、レンズを通して拡大された像を観察します。対して電子顕微鏡は、観察対象に電子線を当て、物体からでた信号をデータとして取得し、画像にして観察することができます。倍率の限界(分解能)は、当てる波長が短いほど高倍率になります。可視光の波長は長く、電子線の波長は非常に短いので、電子顕微鏡は高倍率で細かい部分まで観察することができます。

 今回は時雨の後に見つかる黄色い粉の正体、ヒマラヤスギの花粉についてご紹介しました。花粉にも種の存続のための工夫が詰まっているのですね!みなさんも黄色い縁取りをみつけたら、可愛い花粉のことを思い出していただきたいと思います。
                                                                                ねこ好き研究員 ねこ田